自動演奏ピアノとテレビ会議システムを組み合わせた新たな実践的ピアノレッスン方法

について

                      洗足学園大学ピアノ科講師 伊東裕子

―はじめにー

今日の音楽教育は幼児期のレッスンから始まり、小学校低学年、中学年、高学年、中学校、高等学校、大学と各年齢を踏まえその時々生徒の段階に合わせた教育法が必要であると考えます。しかしながら現実には教本に則った画一的な授業や、年齢に対して難易度の高い課題曲を課したりなど理想の音楽教育とは隔たりのある教育が見受けられます。

私の主宰する子供の音楽教室では理想の音楽教育を目指して幼児期の子供からお年寄りに至るあらゆる段階の生徒たちに実際にピアノレッスンを行いながら、生徒たちが自発的に行えるレッスン方法の研究を行い、その結果として効率的に理想の音楽教育を行うためのツールとしてピアノ遠隔レッスンシステムの導入を行いました。

子供の音楽教室では幼児期から小学校低学年まではソルフェージュレッスン主体のピアノレッスンを行い、幼児期に音楽性と読譜力を教育し音楽の楽しさを感じ取れるような感性を身に付けさせることによって、小学校中学年に達すると自分自身で音楽を感じ、自発的にピアノを練習するようになり、小学校高学年、中学、高校とその段階にふさわしい課題曲をこなしながら、同時にソルフェージュ力を身に付け、感性あるピアノ演奏を行えるように指導することを目的としています。従来のピアノレッスンでは教本に則ってレッスンを進めることが多く幼児期におけるソルフェージュ力を育てる工夫が不足していたように感じます。しかしながらソルフェージュ主体のレッスンを行うためにはたいへんな労力がピアノ教師に課せられるためピアノ教師は理想と現実の間で悩む結果となっていました。

 以上のような問題を実際に解決するにはどうすればよいかを考えた結果、自動演奏ピアノを利用した遠隔レッスンシステムとテレビ会議システムを組み合わせることによってレッスンの効率化を図り、自動演奏ピアノの持つ再現性を使って、ひとりのピアノ教師が数多くの生徒を効率的に、時間と距離を飛び越えて指導することの可能性を研究しました。

 現在ピアノ指導の現場では従来からのピアノ指導法が日本の現状から乖離しつつあるのではないか、旧態依然とした指導法を今後も続けていっていいのだろうか、などさまざまな意見が出されています。ピアノはそのタッチ感、フレーズ感などなかなか言葉には言い表せない微妙な感覚を生徒に教えるため従来、個人レッスンが主流になっていました。子供の音楽教室では小中学生を本研究のサンプルとして現実に即した実験を行うことによって、過去から現在に積み上げてきたクラシック音楽におけるピアノ教育法についても、最新の技術を取り入れることによって新たな効率的な教育法が生み出していけるのではないかと考えはじめました。同時に自動演奏ピアノを制御するMIDIデーターはすべてのデジタルミュージックに共通するものでありクラシックピアノとコンピューターミューシックとの完全なる融合も今後は可能になっていくのではないかと考えています。


 1.遠隔ピアノレッスンシステムの全体構成について


 ピアノ遠隔レッスンシステムは大きく分けると3つの周辺装置から成り立っています。第一にピアノ教師側自動演奏ピアノ、テレビ会議システムがあり、第二に生徒側の自動演奏ピアノと、テレビ会議システム、第三にグループレッスンを行うテレビ会議システムで構成されます。教師側システムでは生徒側自動演奏ピアノのMIDIデータを再生しその場で生徒が演奏しているかのように生徒の演奏を再現します。教師は生徒の演奏を納得いくまで再演させ講評を行い、実際にピアノを弾いて添削を行った後に自動演奏ピアノのMIDIデータ-と電話会議システムの画像ファイルをサーバーに転送します。

生徒側自動演奏ピアノは個人レッスン、グループレッスン中の短時間個人レッスンに使用します。生徒は前回レッスンに転送しておいた自分自身の演奏MIDIデータ-と教師が添削を行った教師の模範演奏を、サーバーから取り出し再生を行います。この作業はアシスタント講師がいる場合は講師が行い教師の添削の解説などを行います。





2.遠隔ピアノレッスンシステムの機器構成と機能について





3.遠隔ピアノレッスンシステムの機器仕様について

本システムにおいては次のような機器を使用します。

 

教師側

    生徒側

自動演奏ピアノ

ヤマハ EA-1

ヤマハ YM10-SXGZ

自動演奏ピアノ用パソコン

SHARP mebius pc-x2001 

SHARP mebius pc-x2001 

テレビ会議用パソコン

日本ヒューレットパッカート製P8630E型

日本ヒューレットパッカート製P8630E型

自動演奏ピアノ用アプリケーションソフト

ヤマハ XGWORKS VER4,0  

ヤマハ XGWORKS VER4,0 

テレビ会議用アプリケーションソフト

ピクチャーテル製

PICTURETEL 550型  

ピクチャーテル製

PICTURETEL 550型 

サーバー

日本IBM netfinity1000

日本IBM netfinity1000

電話回線

ISDN回線×2

ISDN回線×2

 

システム構成上の留意点を以下に述べます。

1)従来のピアノ個人レッスンの良さをできるだけ残せること。

2)ITを活用することによって新たな専門的特殊技能を必要としないこと。

3)今後の拡張性があり、新たな仕組みも付加できるシステムとすること。

4)ピアノレッスンの効率を高めるシステムで、ITのための機器開発にならないこと

5)できるだけ市販システムを使用し、コストダウンを行うこと。

以上の留意点を基本として機器設定を行った結果、全体システムが上記のように決定しましたが、決定までの経緯を以下に述べます。

1)自動演奏ピアノについて

自動演奏ピアノについてはかなり以前から市販されていましたが、私自身当時は単なる演奏ロボットというイメージでの認識しかありませんでした。本システム開発にあたって十数種類の自動演奏ピアノを何度も聞き比べてみるとそれぞれの特徴があることがわかりました。厳密にいえばピアニストの弾く演奏を100%再現することは難しいようです。しかしながらピアノレッスンが必要としている再現性においては十分な性能があり、高級仕様でない廉価版のシリーズでも十分遠隔レッスンに耐えるものであるとの判断を下しました。上記2機種は廉価版シリーズから調達しました。

2)テレビ会議システムについて

教師側、生徒側の様子を映し出すためにピクチャーテル鰍フ550シリーズテレビ会議システムを導入しました。現在、高速インターネット回線がDSLや光ファイバー等によって身近なものとなってきましたが、今現在確実に使用できる映像機器は上記機器であるとの結論から導入しました。高速インターネット回線も使用料などではたいへん魅力


的ですが、現在はテレビ画像程度の動画を安定して送れる機器は開発途上であるようです。インフラの整備も考慮すると、今後2年間程度はISDN電話回線を使用するのが有利であると考えました。

3)アプリケーションソフト

ヤマハXGWORKS VER4,0を採用しました。現在はMIDIデータ-を再生、加工するためのものですが今後の展開性、発展性を考えた結果でした。今後どのような形で本システムが展開していくかは未定ですが、コンピューターミュージックとの融合も視野に入れ、本ソフトの採用を行いました。

4)テレビ会議用パソコン本体

日本ヒューレットパッカート製P8650E型を導入しました。機能的には国産パソコンでも十分ですがピクチャーテルビデオボードの基盤寸法が国産品には合致しないので上記機種に決定しました。OSはWINDOWS98を使用しています。

5)MIDIデータ-アップロード用パソコン

シャープ株式会社製mebius-2001c型を導入しました。ピアノ上部の限られたスペースに設置する条件によりオールインワンタイプのデスクトップ型に決定しました。

6)サーバー

サーバーは大型から小型まで様々な機器がありますが、今回はまだデータ-量が少ないことから小型の日本IBM製netfinity1000を導入しました。

以上機器により本システムを構成しましたが今後の組み合わせは未定で、その時点でもっとも性能とコストパーフォーマンスの優れた機器を調達すれば良いのでないかと考えます。今後は基本システムに沿った調達になると考えますが、電話回線がISDNからDSLや光ファイバー等に変わっていく可能性も高いのでその時点で過去のシステムにある程度即した最も優れた機器の調達を行っていきたいと考えます。


4.遠隔ピアノレッスンシステムの指導方法について

1)子供のピアノレッスンの場合

5.まとめ

遠隔ピアノレッスンを実際に行ってみて強く感じたことは“従来のピアノレッスンは十分に生徒が理解できていたのだろうか?”という自分自身に対する反省でした。ピアノ遠隔レッスンはレッスンの内容がサーバーに蓄積するため生徒の理解度も後日、手にとるようにわかりますし、同時に教師自身のチェックも行えます。従来も決して手を抜いてレッスンを行っていたわけではありませんが個人レッスンの場合、緊張感を持続しながら生徒に理解させていくことが難しい場面が、過去に何度かありました。本システムにおいてはサーバーに演奏データ-が蓄積され瞬時に再現できるため生徒の演奏を手にとるように何度でも再生できます。またテレビ会議システムと併用しているためすべての演奏を自動演奏ピアノで行わなくても簡単な部分はテレビ会議システムの音声部分がかなり明瞭な音でカバーします。従って従来の個人レッスンと同じようなレッスン形式を執ることが可能で、できるだけ従来型レッスンの良いところは残しつつ最新のITを活用することにより効率を上げ、従来は多数の生徒にすることができなかった、きめ細かい理想のレッスンを行うことが現実にできることを確認できました。

実際にシステム化を行ってみると使い勝手が悪い面も一部ありましたが(これらの改造は今後行う予定)全般的には実際のレッスンに相当の効果をあげるものであるとの結論を持ちました。私たち教える側の立場としてはレッスン時間をいかに有効に使うかが私たちの責務であると考えます。実際レッスンを行っているともう少しレッスン時間内で教えてあげられたらと思うことが多々あり、時間との戦いになってしまっているのが現実です。これらを解決するためには補講を行う以外にはなく、十分に生徒に理解させることができない場面が何度かありました。本システムの中でもっとも有効な機能として、過去のレッスンデータ-の蓄積が上げられます。いつでも過去の演奏データーと画像が取り出せるので、従来のフロッピーディスク方式とは異なり本システムはレッスン風景も同時に再生でき、過去の演奏風景が即座に思い出され現在行わなければならないことが容易に発想できます。実際に生徒も過去の演奏をフロッピーディスクで再生するだけではなかなか思い出せなかった場面が、レッスン風景が再生されると瞬時に思い出せるようでした。

本研究目的のひとつとして自動演奏ピアノの再生能力の見極めがありましたが、自動演奏ピアノはピアノレッスンの使用に十分に耐えうるとの結論を得ました。自動演奏ピアノによるピアノリサイタルを行えないだろうか、リアルタイムにオーケストラとの競演は不可能か、など様々な利用方法が挙げられていますが、実際に使用してみると微妙なピアノタッチ(特に鍵盤の戻る速度)やペダル操作速度の点でわずかな違和感が感じられます。微妙な感覚が全てであるソロのピアノ演奏を自動演奏ピアノで行う必要性は感じられませんが、使用方法を限定すれば十分に価値があると考えます。本研究の成果は“自動演奏ピアノはピアノレッスンにおける優れたツールである”との確認ができたことで、近い将来、光ファイバー、ADSL等による高速インターネット網が日本全国に張り巡らされることが期待できるので、本研究をさらに進め理想の音楽教育を目指したいと考えます。


6.今後の課題

自動演奏ピアノによる遠隔ピアノレッスンは第一段階である全体システムが組み立てられたので、今後の課題としてはピアノレッスン内容の充実であるコンテンツの開発に注力していきたいと考えます。従来個人レッスンにおいてマンツーマンで行っていた授業内容を、本システムに乗せる場合、授業内容全体から個別内容を抜き取りそれぞれの無駄を省きながらシステム化を行う作業が必要となります。実際に生徒に遠隔レッスンを行いながら効果を確認してシステムを組み立て直すなどの作業が多いため、十分な研究時間が必要となります。今後は全てのピアノレッスンを遠隔レッスンで行うようなシステム化を進めながら引きつづき取り組んでいきたいと考えます。

遠隔ピアノレッスンを研究する上で今後の可能性として考えられる仕組みと技術的な可能性について以下に述べます。

1)自動演奏ピアノを用いたピアノコンクール

 ピアノコンクールについては予選、準本選、については遠隔ピアノシステムを使用して十分に行えると考えます。従来のピアノコンクールは敷居が高く予選に参加することも大変で塾通いに忙しい小学生などはなかなか参加できませんでした。遠隔ピアノレッスンを使用すれば地方の子供たちも気軽に参加できコンクールの裾野が大きく広がると考えます。本選進出者においては従来どおりのコンクール形態がふさわしいと思いますが、遠隔ピアノシステムによって誰もが自由に生き生きとピアノを弾けるようなコンクールが行えるのではないかと考えます。

2)海外音楽家との連携

 従前、海外の有名音楽家にレッスンを受けるためには海外留学か長期滞在の方法しかありませんでしたが遠隔ピアノレッスンを使えば海外と日本とを結びピアノレッスンを行うことができるようになります。時差はサーバーを有効利用し各々の予定を優先して行えるようにすれば効率の良いレッスンが行えます。海外留学の前段階としても大きな効果があると考えます。

 以上は可能性の一部ですが、ピアノ遠隔システムがクラシックピアノレッスンの有効なツールになることは間違いありません。本システムをどのように利用するか、コンテンツをどのように作り上げるかなど新たな取り組みを今後は行っていきたいと考えます。従前からあるクラシックピアノレッスンを現代の子供たちの感覚に合った形に変化させ、彼らの興味を引く形に作り上げると共に、誰でもが参加できるピアノレッスンを行いながらクラシックピアノの裾野を広げる。コンクール通過のためだけのピアノレッスンではない自由な発想の中でレッスンを行い、子供たちが生き生きと音楽的な環境の中で生活し、21世紀を豊かな音楽的感性溢れるクリエイティブな社会に築き上げて行けるように指導していきたいと考えます。


 

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